
SOLO EXHIBITION
社会は人を単純な二元論で括ろうとする。
しかし、私たちの特性はその枠組みの外、揺らぎ続けるスペクトラムの中にある。
それはひとつの場所にとどまるものではなく、環境や状況によってその姿を変える。
けれども私たちはしばしば、他者に明確な線を引き、断定しようとする。
この展示に描かれた人々の眼差しに、そうした価値観が与える影を落とし込んだ。
この展示のテーマのひとつでもある「赤」は、血と生の象徴であると同時に、
二元論が孕む暴力性を可視化するものでもある。
私は人の輪郭の曖昧さや移ろいの意味を問い続けたい。
この制作は、その思索の一つの形である。
Society attempts to confine people within a simple dualism. However,
our traits exist beyond such frameworks,
continuously shifting within a spectrum. They do not remain fixed in one place; rather, they transform according to circumstances and environment.
Yet, we often draw clear lines and define others with certainty.
In the gazes of those depicted in this exhibition,
I have embedded the shadow cast by such imposed values.
One of the themes of this exhibition, red, symbolizes both blood and life,
while also making visible the violence inherent in dualism.
I want to continue questioning the ambiguity and transience of human contours.
This work is one manifestation of that exploration.
展示会場 / 銀座 蔦屋書店 FOAM CONTEMPORARY
FOAM CONTEMPORARY 会期 /2025年3月8日(土)~4月2日(水)
営業時間/11:00~19:00
定休⽇/⽉曜⽇
入場 / 無料
グッズ展開会場/ 銀座 蔦屋書店 GINZA ART SQUARE
GINZA ART SQUARE 会期 /3/8(土)~3/22(土)
GINZA ART SQUARE 時間 /10:30~21:00
定休⽇/会期中無休
入場 / 無料
主催 / 銀座 蔦屋書店
住所/ 〒104-0061 東京都中央区銀座6-10-1 GINZASIX 6F
Exhibition venue: FOAM CONTEMPORARY, Ginza Tsutaya
FOAM CONTEMPORARY Dates / March 8, 2025 (Sat) - April 2, 2025 (Wed)
Business hours: 11:00-19:00
Closed on Mondays
Admission: Free
Goods sales venue: GINZA ART SQUARE
GINZA ART SQUARE Dates / 3/8(Sat)~3/22(Sat)
GINZA ART SQUARE Hours /10:30~21:00
Closed / Open daily during the exhibition period
Admission: Free
Organizer / Ginza Tsutaya Bookstore
Address: GINZASIX 6F Ginza Tsutaya GINZA ART SQUARE,
6-10-1 Ginza, Chuo-ku, Tokyo 104-0061, Japan

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父親の方針でキリスト教の学校と教会に通っていたことがあり、
聖書の物語は馴染み深いものとして記憶に残っていました。
自分にとって「神」とは何なのか
まだわかりませんが、
おとなになって再び聖書を読み解くと
新しい解釈が生まれ、作品に落とし込んでみたいと思いました。
そのため今回の個展では聖書からインスピレーションを受けた
作品が複数あります。
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1「羊飼いの声を知らない」
新約聖書の中で、イエスは羊飼い、人間は羊にたとえられます。
現代の私たちは誰の声に耳を傾けているのでしょうか。
耳障りのいい話や誰かを糾弾する声、
人々を分断に導く声が多いように感じます。
SNSによって世界が繋がった今、
たくさんの選択肢が増えすぎて、迷うことが多くなりました。
私にとっての羊飼いは誰なのか、よく考えることがあります。
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2「四頭の馬」
3「暗がりを歩いていた」
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ヨブ記29章
あのとき、神のともしびが私の頭上を照らし、神の光によって私は闇の中を歩いたものだった
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旧約聖書の『ヨブ記』では、ヨブという人物が絶望の中でさまよい続け、
人間の考えられる範囲の善悪の概念を超えた
圧倒的な存在である神との対峙が
描かれています。
新約聖書の『ヨハネの黙示録』は、
世界の終末と神の最終的な勝利を描いた壮大な預言書であり、
その中でも馬に乗った四騎士が象徴的な存在として登場します。
彼らは戦争や飢饉、疫病、死をもたらし、
最後の審判へと世界を導く姿が描かれています。
全てが終わった後で信者たちは
神の統治する平和な世界で永遠の命を得るとされています。
暗闇の中をさまよい続けるヨブ記と
全てが終わりを迎え新しい世界が始まるヨハネの黙示録
二つの物語は真逆の世界観を描いているようだと感じました。
現代の私達は、どちらかというとヨブ記のように
まだ暗闇の中を彷徨っているように思います。
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4.5 6.7.8 「連作」
日常の中で不意に訪れる不安や恐怖を描いています。
4・10代の頃部屋の中で一人考え事をしているとき
5・クラスに馴染めなかった孤独や行き場のない怒りを
ずっと絵にぶつけてきた学生時代
6・自分の容姿がいやで、出かけようと思って化粧をし始めても
結局こんな顔では出られないと思いつめ恥ずかしさと
不安ばかりが募っていた頃
7・お風呂で考え事をしているとき。
これは『エルム街の悪夢』のバスタブからフレディの手が
飛び出してきたシーンから着想を得ました。
8・クローゼットの中の暗がりや、隙間が怖い。
このいつ襲ってくるかわからない得体のしれない恐怖は
不意に訪れる不安や理不尽な出来事と
似ているなど思い描きました。
誰しもそれぞれ、色々な種類の不安や葛藤を
抱えて生きてきたと思います。
今そういったことに悩んでいる人もたくさんいると思います。
この作品のどこかに、見てくれた人が自分を投影してくれたら
いいなと思います。それぞれの思いを理解してみたいです。
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9「Spectram」
今回のキービジュアルで、一番はじめに描き始め、
一番最後まで描き続けた作品です。
気持ちが落ち込んでいるとき、
楽しい場所で友達といても自分だけが別の空間にいるような
気持ちになることは多くの人が経験したことがあるかもしれません。
今同じ思いにある人がこの絵を見たとき、
孤独感を共有することで、あなたは一人ではないと、
気持ちが軽くなればと思い羽を生やしました。
この展示全体に言えることですが、
自分の役割は社会に問題提起をすることではなく
(もちろんそれも大事なことですが)、誰かの不安や葛藤に
寄り添えるような作品を作ることかなと思っています。
不安な時に一人じゃないよなんて言われても、
何の意味もないこともわかっています。
励ましの言葉をもらっても所詮他人だと思いますよね。
それでも1ミリでも記憶の隅に私の気持ちが残っていれば
いいなと思います。
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11「見失った羊のたとえ」
百匹の羊をかっている羊飼いはキリストを表し、見失った一匹の羊は罪人をたとえている。九十九匹を野原に残すという危険を冒してでも良い羊飼いは見失った一匹の羊を探し出そうとする。イエスは羊飼いにとっての見失った羊、すなわち神にとっての罪人たちはそれ程大切なのだと説いている。
子供の時に聞いたこの物語がとても印象的でした。
当時学生生活が長く鬱屈とした日々だと感じていたため、
このたとえ話が本当であれば自分を助けてくれ!
と皮肉に受け取り、同時にすがりたい気持ちで
たとえ話のタイトルを入墨に入れました。
独りよがりで、わがままで幼稚な子供だったなと今では反省しています。
歳を重ねた今、羊飼いのように、
自分より若い世代の苦しみをなるべく理解できるよう努力したいし、
今苦しみの中にある人たちの寄す処の一つになりたいと
思うようになりました。
まだ自分のことで精一杯なことばかりな未熟な人間ですが、
いつかはそういうおとなになりたい。
そういった思いで
不安や孤独から仔羊を守る、羊飼いのような服に身を包んだ
女性を描きました。
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17「重なり合った今(石巻にて)」(過去作品)
https://macc.bunka.go.jp/4244/
アーカイブというテーマで、
これまでの自分自身の作品制作について焦点を当てました。
10枚に重ねたアクリルは、過去から現在を表しています。
奥から、デッサンで表現をしていた過去、
デジタルで作品を制作し始めた過去、
そして3Dを技法として取り入れた現在です。
横から見た作品は、時間が一方向に流れ続け、
過去と未来は切り離されたものだという固定的な概念を表しています。
しかし、前から見た作品は、全ての時間が重なった偶発的な瞬間が今で、
過去も未来も切り離されていないということを表わしています。
夢中で制作に取り掛かり始めた頃、描くことに迷いはなく、
生き生きと作品を作っていましたが、
今はAIなど美術を取り巻く時代の変化に困惑し、
絵は自分にとってどういう意義を持つのか
改めて考えるターニングポイントにあります。
今は冬枯れしている木も、また青々と茂る木に変わるという意味も込めて
自分の「記録」に自然を取り入れました。
石巻に行ったとき、高台に被災前の写真と、
未来への取り組みが書いてある風景をいくつか見ました。
現在の景色とそれらを重ね合わせることで、
多くの人たちの思いや取り組みがあることで
今この瞬間があると改めて実感しました。
自分にとって無ければならない大切な存在だった絵との向き合い方に、戸惑いがある今だからこそこれまでの歩みを振り返ることが大切だと感じ、作品を作りました。